御所工芸館は、この一冊を薦めます。
本書は、自然科学に興味ある方には勿論のこと、これからの世界を担う若い方、及び教育関係者の方々に特にお薦めしたい。著者は生物学者であり、本書は純粋に自然科学の分野に属する書物であるが、著者の真理を追求する姿勢が行き着いた結論からは、読む方の立場によって、様々な示唆を受けることが出来るだろう。
すでに知られていた現象に、誰も気がつかなかった意味を見出し、壮大な仮説を組み立てた。そして、その直感をコンピュータを用いたシミュレーションで検証し、理論として世に出した。新しい理論を提唱するに至った過程に、著者の強烈な個性を感じる。この理論に対する評価は、時代が進むのを待つしかないが、DNAの複製という生物の根源的な部分に基づいた理論であるだけに、その期待は大きい。現在、理論の実験的な検証や理論を応用する研究が進められ、それを支持する結果も得られているようである。生物学者の自伝としても楽しめる。
なんと言っても、本書には、真理を探究するロマンがある。
執筆時の著者の年齢が77歳とは到底思えない瑞々しい文章から、その興奮が伝わり、つい引き込まれてしまった。専門的で理解できない部分もあるが、一般読者を意識した明快な文章は読み易く、何よりも、少年時代からの正直で素朴な疑問から始まる著者の人間味あふれる丁寧な解説は分かりやすい。
著者の発想を生む「考え方の手法」も、本書で一部明らかにされている。
「自然は単純で美しい」
「美しいものは本物である」
本書を読んで、印象に残った言葉である。
以前、スキー場のリフトの上で、古澤氏本人から、本書に記されている内容を聞いたことがあった。
DNA二重鎖がほどけて新たに複製される二本の鎖の合成メカニズムが異なること、複製エラーの頻度が両者で異なるとしたらどうなるかコンピューターでシミュレーションしていることを話していたが、その時はその意味が理解できなかった。その後、その話を聞くこともなく、リフト上での僅か数分間の記憶が残っただけで、20年近くが経過した。
本書を読むことによって、古澤氏の秘密のベールに包まれていた部分が明らかになった。理解し難かった古澤氏のつながりの無い断片的な言動も、ある程度統一的に理解できるようになった。改めて、生物学者としての、人間としての魅力に気付かされた。古澤氏に、あと20年〜30年の現役の年月をプレゼントしたら、いったい何をするだろうか?と思わずにいられない。
沼田 文男
もう一言
リンク
The role of disparity-mutagenesis model on tumor development
with special reference to increased mutation rate
がん細胞の異常に高い変異率と不均衡変異モデルの関係を論じています。
不均衡進化論の総説
OJGen20110300008_80573945.pdf へのリンク
DNA二重らせんの生物学的意義に関する古澤氏の考え方です。
筑摩書房 不均衡進化論 古澤 滿著
この本を面白いと思った人を見つけました。
おっさんひとり飯
お気らく活字生活
ゆうどうの読書記録
こんなところでも紹介されています。
生命の森をさまよう
小宮研スライドショー
科学技術振興機構
学生に読んでほしい本2011 大阪産業大学綜合図書館
古澤氏が創業者であり、現在最高科学顧問となっている会社です。
古澤満コラムがあります。
株式会社ネオ・モルガン研究所